デイリーメッセージ

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英国政治とマニフェスト

みなさん、こんにちは。暑いですね。8月冒頭までは涼夏でしたが、ついに蒸し暑く なりました。そして、衆院選挙も近い。これは、心身ともに汗をかいて動き回るしか ない季節となりそうです。

私は、特に、沖縄方面に行くことが今後増えそうです。はっきり言って、毎回沖縄行 きの飛行機にスーツで乗るのはつらいです。ひどいときは、周囲を見渡して私しかネ クタイをしていません。ということで、アロハシャツでこれからは乗ろうかなと思って いますが、決して私は遊びに行っているのではないので、羽田空港あたりでアロハ遠山を見かけても誤解のないようにお願い申し上げます。

さて、先日成田から送ったメルマガにあるように、私はマニフェストの本場英国に短 期間訪問し、調査・取材をしてきました。労働党下院議員や新聞記者、大学教授など に断続的に会って、いろいろ話を聞いてきましたが、大変勉強になりました。その概 要については、報告書を作ってありますので、このメルマガの最後に貼り付けておこ うと思います。

会談を行った人たちの間で、いろいろ意見の相違はありましたが、基本的にはマニ フェストは民主主義や政党政治の活性化に有効だという認識が表明されていました。 やはり、政治家や政党を選ぶ際に、明確な基準があったほうがいいということで しょう。

ちなみに、英国に行かなくてもマニフェストのことを知るのに格好の書籍があるの で、ご紹介したいとおもいます。いろいろ出ているんですが、私が読んだ中では、次 の2冊が非常にわかりやすく、しかも面白いです。

◆藤森克彦著『構造改革ブレア流』(TBSブリタニカ)
◆山口二郎著『イギリスの政治日本の政治』(ちくま新書)

藤森氏の本は、ブレア首相率いる労働党が1997年の総選挙で大勝してから、どのよう に英国を再生してきたかをわかりやすく述べています。マニフェストについては、冒 頭の章から英国政治やブレアの構造改革を考える上での最重要の要素として言及がな されています。

藤森氏の考えでは、日本の構造改革の大きな問題点は、政治が国民から「インフォー ムド・コンセント」を得ていない点であるとされています。それに対し、英国では、 マニフェストの中に「具体的に、各政党が(病におかされている国をなおすために) どのような治療を行う予定であるか」ということが書いてあるので、選挙を通じて国 民のインフォームド・コンセントが得られていると主張しています。これを藤森氏 は、次のようなサイクルとして図式化しています。
「選挙におけるマニフェストの提示」→「政策をめぐる政党間の論争」→「国民によ る選択」→「民意を反映しながらのマニフェストの実現」→「次の選挙におけるマニ フェストの達成度検証と国民の審判」(p.15)

日本では、このサイクルがないため、国民の政治に対する「オーナーシップ」(所有 感覚=つまり、自己責任で政党や政治家を選んでいるという自覚)が欠如していると いうことなのです。

2冊目の本の著者は北海道大学教授で、実はこの本を書くために英国に滞在していた 同氏と私は英国で偶然会って、パブで一晩飲んだことがあります。それだけに私は個 人的な親近感があるのですが、それが理由でこの本を推薦しているわけではありませ ん。

山口氏も随所で日英の政治システム・政治文化、そしてその成熟度を比較しています が、大変に示唆に富む内容になっています。たとえば、一箇所だけ紹介すると。
「政策とは、政府の行動の案である。人間の欲望は限りないもので、政府に対する国 民の欲求も放置しておけば、いくらでも広がる。他方、政府が政策の実施のために使 うことのできる人手や金には当然限界があり、一定の資源をどのような政策に振り向 けるかという判断こそ、政策の立案において重要な意味を持つ。(中略)政策という のはその実現のためのコストをいかに負担するのかを考えた上で提示して初めて説得 力をもつものである。(こういうのを英語ではポリシーという。引用者注)(中略) 反対に、コスト面での裏づけもなしに、国民に対する甘い公約を並べたものをウィッ シュ・リストという。日本語に直せば、願望の羅列ということになろうか。」

マニフェストはポリシーの集大成でなくてはならず、ウィッシュリストであってはな らない、ということがわかりやすく説かれています。

ご関心のある方は、是非この2冊を読んでみてください。日本の政治を分析するのに も、大変に役立つと思います。

それでは、最後に私の英国訪問の報告書をお読みください。夏ばてに注意しながら、 がんばりましょう!

?報告書?

英国におけるマニフェストに関する調査概要
7月28日?30日
於:イギリス

国際局次長・参議院議員
遠山清彦

1.Jane Griffiths (英労働党下院議員(女性)、当選2回、レディング・ イースト選挙区)

・1997年の総選挙において、マニフェストは労働党勝利に主要な役割を果た してはいない。リーダー(トニー・ブレア党首)の個性、魅力が大きな要因だった。 それに比べて2001年の場合はより伝統的な選挙戦となった。つまり、マニフェストの 影響力が大きく、選挙民の投票判断の基準となった。

・国民は自らの生活に大きく関わる問題にしか関心を抱かない。また、人々 の関心はそれぞれ違う。ゆえに、マニフェストは包括的にならざるを得ない。

・労働党は草の根レベルで政策決定過程に参加をしている点で、他党とは違 う。

・マニフェストは国全体のレベルの問題であり、それ自体を丸ごと各候補者 が訴えるわけではない。その中から自分の選挙区にとって大事な問題を取り上げ、選 挙運動の中で訴える。

・政策実施に伴う必要な予算を提示するのは、政権を志向する責任ある政党 にとっては当然のことだ。

・1997年のマニフェストで約束して実施できなかったものに関しては、2001 年のマニフェストにおいて率直にそれを認めているものもある。しかし、努力したと いうことを強調した。

・元来イギリス国民は、政治家を「自分が選んでいる」という責任、自負の 意識が高い。その選択に際しての判断材料として何かが必要だったわけで、それがマ ニフェストというものに結実したのだろうと思う。

2.Anthony Shaw(英国政府公務員研修所教授)

・マニフェストはメディアが大きく取り上げ詳細に分析するため、特に表現 (wording)は気をつけなければいけない。一言の違いで受けとめられ方は大きく異 なる。

・国家官僚にとって、マニフェストを提示されることは、選挙後に政策がど う変化するか予測するうえでたいへん有益だ。政権が変わる可能性が高い場合、次期 政権が行ないそうにない政策を、現政権の任期が残りわずかという時に実施するよう に働きかけなくても済むので、リスクを抑えることができる。

3.Matthew Tempest(全国紙『ガーディアン』政治記者)

・マニフェストは、民主主義にとって本質的に重要だ。新聞社は、各政党の マニフェストを分析し、詳細に論評している。

・ただ、労働党も含めてマニフェストに載せた政策を実行しないと、厳しく 追及される。たとえば、97年、01年双方で労働党が掲げた「狐狩りの禁止」について は、全く前進がみられず、国民の不信感を増幅させている。

・公明党をはじめとする、日本の政党がマニフェストを導入することは、歓迎したい。

4.John Tate(保守党党首政策部門スタッフ、マッキンゼーから出向中)

・マニフェストを含めた政策決定において、政策担当部門(policy unit)を 設けて専門的に取り組み始めたのは、メージャー政権の頃からだ。それに成功したの はブレア政権だ。

・従来、マニフェストはスローガン的なもの(aspiration language)であっ たが、最近の特に労働党のマニフェストはかなり具体的な政策の項目列挙になってい る。これは行き過ぎた感があるので、次回のマニフェストは少し揺り戻しがあるので はないか。

・保守党がマニフェストで訴えようと思うのは、昨今の労働党のような政策 リストの列挙、細かい約束ではなく、必要なシステムの変革(system change)だ。 具体的な政策の実施については、前線の実務家、専門家にかなりの程度委ねて、政府 としては適切な枠組み作りに専念する。

・マニフェストのプレゼンテーションの仕方にも配慮しなければならない。

5.Paul Kelly(ロンドン大学(LSE)教授)

・20世紀の初めあたりから、労働党がマニフェストを本格的に提示するよう になった。それ以後、マニフェストはイギリス政治に欠かせないものになっている が、しかしその重要性はどんどんなくなってきている。

・細かい具体的な政策よりも、より大枠の政治課題について言及することの ほうが効果的だ。国民は、各党の具体的な項目をきちんと比べたりはしない。

・1997年総選挙での労働党のマニフェストは、詳細な内容が成功をもたらし た例だが、それは2001年においては機能しなかった。細かく約束しすぎたのが逆に政 権1期目の問題になったからだ。

・それ以上に、保守党のマニフェストを含めた選挙の戦い方がひどかった。 総選挙をほとんど単一の争点(single issue)で戦ったが、それは国民の生活と深い つながりがなかった。総選挙がまるで国民投票であるかのような履き違えをしてい た。

・政治においてはいつ何が起こるか分からない。不測の事態のために、マニ フェストで約束していたことを根本的に破棄しなければならない時もある。だから、 あまりにも具体的な内容を提示するのは危険だ。また、例えば口蹄疫(foot and mouth)やイラク戦争などが起こると、それまでの政府の成果を全て吹き飛ばしてし まうだけの影響力がある。国民はそういう事態になった時にどう政府が対処するか で、その政権の能力を判断しがちだ。

・New Labour(「新生労働党」)は頑迷なイデオロギーに固執しないという ことで、政権奪取を図った。イデオロギーがなくなったために、代替物として細かい 政策をマニフェストで打ち出すしかなかった。

・次回総選挙では、特に労働党のマニフェストにおいて、イデオロギー色が 今までより強まり、具体的な政策項目の列挙は少なくなるだろう。

6.Wyn Grant(ワーウィック大学教授、英国政治学会会長)

・第2次世界大戦後、マニフェストは本格的にイギリス政治に根付くようにな り、内容も細かくなってきた。

・2001年の総選挙においては、労働党にとってマニフェストはさほど重要で はなかった。1997年においては大変重要だった。新しい党を表現する必要があっ たし、それに伴う政策を打ち出す必要があったからだ。マニフェストはそこで大きな 役割を果たした。

・ 国民の大半は、マニフェストを隅々まで読むことはしない。代わりに、新 聞やテレビの政見放送(party broadcast)を通して、自分の関心ある問題について 各政党の政策を比べ、投票の判断基準とする。

・マニフェストと単なる公約(wish list)とはかなり違う。マニフェストに おいては、「こういう法律をつくります」といった細かな政策の約束である。

・マニフェストは包括的でなければならない。また、国民は具体的な約束を 期待している。

・マニフェストは、投票において国民に確かな視点を与えることができる。 この動きに先鞭をつけた公明党は賞賛に値するし、他の党も公明党の動きに続いてい くだろう。

・官僚にとってもマニフェストは意味がある。政権交代とそれに伴う政策変 更がいとも簡単に行なえるのは、マニフェストの存在がひとつの要因だ。

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