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解説のページ:国際刑事裁判所

 9月11日の米国同時多発テロを契機に、国際的なテロ対策の枠組みづくりが議論されている。その中で、非人道的行為などを犯した個人を処罰するための国際刑事裁判所の早期設立を求める声も上がっている。同裁判所についてまとめてみた。


---議論の背景---

個人の刑事責任追及する国際法廷

 国際法廷で戦争犯罪や大量虐殺をした犯罪者個人を裁く――この発想はすでに第1次世界大戦後に生まれていた。
 しかし、国際法が規定するのは国家と国家の関係であるという基本原則がある。その中で、どうしたら個人を裁くことができるのか――この難問に答えることがなかなかできなかった。
 犯罪者を裁くためにはどのような行為が犯罪になるかを定めた刑法が必要だ。国家には刑法があり、そこに定められた犯罪であれば国家権力によって処罰される。
 ところが、国際社会には共通する刑法はないし犯罪者を探して処罰する権力機構もない。各国政府としても、国民が自国以外の場所で処罰されることを安易に認めるわけがない。国際法廷で個人の刑事責任を問うことの難しさばかりが目に付く。
 しかし、戦争犯罪や非人道的行為を放置することは正義に反する。そこで20世紀には、戦争犯罪や大量虐殺などについての条約が結ばれ、そうした犯罪については条約加盟国が国内犯罪として処罰する制度ができた。問題になっているテロも、テロ防止関連条約では国内犯罪として処罰する仕組みになっている。
 個人の刑事責任を問う国際法廷への動きが本格化してきたのは冷戦終結後だ。多発する地域紛争の中で非人道的行為が見過ごせなくなり、国連も本格的に動き出した。

---制度の概要---

 国連総会は1989年、国連国際法委員会に対して国際刑事裁判所(ICC=International Criminal Court)規程の草案を用意するよう要請、同委員会は94年にICC規程最終案を提示した。 ICC実現へ弾みをつけた一因として、激しい内戦で非人道的行為が続いた旧ユーゴスラビアとルワンダに対し、それぞれ93年と94年に臨時国際犯罪法廷が設置されたことを挙げることができる。これらは、国連安保理の下部機関として一時的で特別な法廷として設置されたにすぎないが、非人道的行為は国際犯罪として裁くとの決意が示されることになった。
 その後、96年から98年にかけて国連総会が6回の準備会合を開いてICC規程について審議。98年6月から7月まで開かれたローマ会議で、参加国の圧倒的多数の賛成(賛成120、反対7、棄権21)によってICC規程(ICC設立条約)が採択された。同条約発効には60カ国の批准が必要だが、まだそれに満たず、日本は署名も批准もしていない。

     ◇

ICCの制度の概要は次の通り。

裁判所の構成

 設置場所はオランダのハーグ。裁判官は18人で任期9年、同条約の締約国会合で3分の2以上の賛成で選出される。二審制で第一審裁判所と上訴裁判所があり、さらに予審裁判所も置かれる。また、検察局も置かれ、検察官(主席検察官と次席検察官)も締約国会合で選出される。検察官は予審裁判所の許可を得て職権で捜査もできる。

対象犯罪

 ICCが処罰できるのは「戦争犯罪」「大量虐殺罪(ジェノサイド)」「人道に対する罪」「侵略の罪」の4犯罪。

 「戦争犯罪」は交戦法規の違反、「大量虐殺罪」は人種的、宗教的集団の破壊を意図した殺害、「人道に対する罪」は幅が広く、組織的な民間人のせん滅、奴隷化、拷問、レイプ、政治的・人種的・宗教的迫害などが含まれる。しかし「侵略の罪」については侵略の定義について合意できず、将来の課題として残された。

罰則

 対象犯罪に科せられる刑罰は、無期または30年以下の拘禁刑。あわせて罰金を科すこともできる。死刑は議論となったが認められなかった。

補完性の原則

 この原則によって、ICC対象犯罪を裁く優先権は加盟国の国内裁判所に認められ、国内裁判所が刑事裁判権を行使できない場合や、裁判権を行使しようとしない場合にICCが裁判管轄権を持つことになる。実際、紛争や内乱によって司法機能が失われる場合や、政府高官などの訴追に積極的でない場合も予想される。

ICCへの提訴

 訴訟は国家によって起こすことができる。しかし、ICCが管轄権を行使する前提として関係国の同意が必要だ。関係国とは(1)犯罪が行われた犯罪実行地国と(2)その犯罪を行った被疑者の国籍国であり、そのどちらかの同意があって管轄権の行使ができる。平和の破壊に対する強制措置などを定めた国連憲章第7章の下で、国連安全保障理事会が提訴することもできる。

被疑者の引渡し

 検事提出の証拠によって予審裁判所が国際逮捕状を出した場合、締約国は被疑者を捜査・逮捕する義務を負う。国連安保理が提訴した事件では、ICCは安保理に対して安保理が持つ強制的措置などの権限行使を求めることができる。

日本の対応

 日本はローマ会議で、ICC実現へ主導的な役割を果たした。その日本が署名も批准もしていない理由は、国内法制の調整が残っているためだ。例えば、現行法では主権国家への犯人引き渡しはできるが、ICCのような国際機関に対してはできないといった法的不備が存在しているからだ。

遠山参院議員に聞く

英国がテロ後に条約を批准したことは象徴的

 ――国際刑事裁判所(ICC)が対象とする犯罪にはテロリズムは含まれない。米国同時多発テロを契機に動き出した対テロ国際協力の中で、政府にICC条約の早期批准を求める意味はあるのか。 遠山清彦参院議員 確かに、テロや薬物犯罪はICCの対象犯罪ではない。テロについては、すでに存在するテロ防止関連条約に従って加盟国の国内裁判所で処罰される。しかし、この仕組みだけで今回のような残虐なテロに十分な対応ができるのだろうか。
 米国は、98年8月のタンザニアとケニアで起きた米国大使館連続爆破事件などの被疑者として、今回の同時多発テロにも関与したとされるウサマ・ビンラディン氏をすでに米国法廷に訴追していた。しかし、今日まで被疑者の引き渡しはされていない。テロ防止条約の仕組み以外にもテロ処罰のための制度が求められるところだ。
 私は、今回の同時多発テロのような残虐な犯罪については、ICCの対象犯罪である「人道に対する罪」として裁けるのではないかと考えている。
 9月11日の同時多発テロ発生以降、今月13日までに6カ国がICC条約を批准した。とりわけ、現在、米国とともにテロ組織に対する軍事行動をとっているイギリスが4日に42番目の批准国となったことは象徴的だ。今回の同時多発テロ後の一連の条約批准は、テロ対策としてのICCの可能性が期待されている証左ではないか。ICCは60カ国の批准で設立されるが、日本もこの60カ国の中にぜひとも入るべきだ。

 ――国際社会でいまだにICCが設立されない理由は何か。

 遠山氏 犯罪人の処罰は、安全保障と同様、国家だけが担える役割であり、国家主権そのものだ。ICCは、その国家主権の一角を担う国際機関であり、国家の側からすると国家主権の制限となる。
 ICCは「補完性の原則」を採用し、ICCの対象犯罪であってもその処罰の優先権を国内裁判所に与えるなど国家主権への配慮を示しているが、重要なことは、たとえ主権制限となっても、ICCの対象犯罪は国際機関で処罰できるという厳しい制度をつくることが結局、国民の生命保護につながるという発想の転換を推し進めることだ。
 今回の国際的なテロ対策の中で、こうした思潮が高まればICC設立にも弾みがつくと思う。

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